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悲嘆のプロセス12段階 [読書]

とある場所 (病院ではない)で、

高齢の男性が、
「自分は "死にかた" をそろそろ勉強しないといけない」


そう、3回ほどもつぶやき、
受付の人へ訴えている光景に偶然でくわした。

受付の人も、驚きを隠せず、
若干戸惑われているようだった。


子育てからも、仕事からも解放され、やっとそのような時間が得られたのかもしれない。

一般的には、50歳前後の時期にこれまでの生きかた振り返る機会が出来てくるようだ。
そのような時期を、この男性がどのように過ごされたかは分からないけれど、
きっと、お仕事が波に乗っていたのか、
没頭されていて、あまり自身の中の深遠な問いに対峙するゆとりがなかったのかなと感じた。


他人に、このようなセリフを3回もつぶやくということは、
よほど緊迫感があると思われるから。

奥さんを既になくされているのだろうか、お子様のお住まいはきっと遠いのだろうか。
おそらく一人暮らしで、このような話しができる相手が身近にいないのではないだろうか。

今になるまで、そのような深淵な問いを自ら遠ざけて、敢えて目を背けてこられたのかな、
そんな風に感じた。


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『より良き死のために』アルフォンス・デーケン ダイヤモンド社

いつぞや、ブログでも取り上げた、
いのちの探Q、生きがいの探Q。

神谷美恵子氏、
日野原重明氏、
そして、つい先日と今回のデーケン氏、
太いパイプライン。



いのちを
奥深く見つめ続け、
寄り添い続け、
救い出し続け、
探究し続ける偉大なる先生方である。

自らのいのちも、他の多くのいのちも同様に。


いのちをいのちに捧げ続けて・・・



本書では、いろいろな人の最期が語られている。

デーケン氏同様、日本で精力的に活動されてきた妹さんの最期や、
がん告知がなされず、寂しげな最期だったドイツの恩師についても語られている。



■129ページ。
「2017年現在、がんの告知率は80パーセントを超えています。」

たしかに、20年前,10年前に比べると、飛躍的に上昇している。
しかし、
逆にいうと、20%もの人たちは,本当のことを知らされないまま・・・なのか。
5人に1人の割合だ。
これをどうみるか。




■207ページ。
愛する相手を失ったときの心の動きを専門的には悲嘆のプロセスと呼ぶという。
「研究者によって分類の方法は違いますが、私は次の12段階で考えています。」

ということで、
ここでは、デーケン氏の悲嘆のプロセス12段階を紹介する。

(以下、1行目以外は、引用ではなく個人的なイメージ)
乏しい想像力しか持ち合わせていないが、少しでもイメトレしてみることに。



1.精神的打撃と麻痺状態・・・ショックで現実感覚が麻痺する
愛する人の死という衝撃により一時的に現実感覚が麻痺してしまう。
それはそうだろう。在ることが当たり前のように思い込んでいた存在ならば。
ましてや一心同体のような関係であればなおさらのこと・・・
濃いほど衝撃強く、長いほど衝撃強く、結びつきが強いほど切断の衝撃は言葉にできないだろう。


2.否認・・・死という事実を認めない
愛する人の死という事実を簡単には受け入れることが出来ない精神状況
それはそうだろう。
え?うそだ、きっと何かの間違いにちがいない・・・
どうしても信じられないし、信じたくない。
認めるってなんなのかも分からない状態になりそう。
事実とそうでないことの識別って、心に余白があるときしか、きっと不可能なものなのだ。


3.パニック・・・死に直面した恐怖からパニックに陥る
事実を聞いてどうしていいか、なにをどうしたらいいのかわからず慌てふためく。
許容範囲を超えて、心の余白が一切なくなる。
いとも簡単にキャパシティ超えの状態に陥る。


4.怒りと不当惑・・・苦しみを負わされたことに怒りを感じる
どうしてなんだ?なぜだ?なんで?なんで?なんでこんなことになるんや。
日頃の行ないは悪くなかったのにどうして自分が・・・といった感じだろうか。
怒りを感じるもどこにも向けられない事実・・・
この怒り、どのようにして収められるのか。


5.敵意と恨み・・・やり場のない感情を、周囲や故人に敵意としてぶつける
なぜ、自分がどうしてこんなに悲しい思いをしなければならないのか?
周りが悪いんだ、あの人があんなことをしたから・・・といった具合か。
堂々巡りの感じか。あのときのあのことがなかったら、そしてあの人がああしなければ・・・


6.罪意識・・・過去の言動を悔やんで自責の念にかられる
こんなことになるのだったら、こうしてあげれば...と自分を責める
あのとき、こうしておけば、自分がこうしておけば・・・
なんて自分は愚かだったのだろう、なぜそうしなかったんだろう。


7.空想形成、幻想・・・故人が生きているように振る舞う
亡くなった人がまだ生きているように思い込んでしまう。
分かる気がする。そうでないとおかしくなってしまいそう。


8.孤独感と抑うつ・・・人間関係が億劫になり、家に閉じこもりがちになる
出かける気力もおこらず、誰にも会う気になれず、
気持ちがどよーんと落ち込み、孤独な時間を過ごす。
延々とぼーっとしてしまいそう。


9.精神的混乱と無関心・・・目標を見失い、何事に対してもやる気を失う
無関心。生きる目標を見失い、なにもしたくなくなる。
無気力、虚無感、絶望。こういったものが襲い続けるのか・・・
目標、目的、ゴール、達成、なんて文字は辞書からすっかり消えてしまいそう。
やる気、意欲、モチベーション、躍動感、前向きっていったいなんだ。
これらの概念もすっかり消えてなくなりそう。
諦観か、絶望か、無関心か・・・

10.受容・・・死という事実を前向きに受け入れようと努力を始める
愛する人が亡くなった事を現実に受け止めることができる


11.新しい希望ーユーモアと笑いの再発見・・・微笑みとユーモアのセンスを取り戻す
これまで片時も放れなかった愛する人との別れ。
その呪縛からときおり解き放たれている自分がいるのに気づき始める。
罪悪感でできなかった笑いを日に日に取り戻すことができてきた・・・

といったぐあいか。

やはり、時間薬の効果もあるだろうか。
振り返りをくり返し、通ってきた道をじっくり見届けると、
人は再び前を向けるようになるしくみなのだろうか。


12.立ち直りー新しいアイデンティティの誕生・・・苦しい体験を通して、より成熟した人格へと成長する

愛する人との死別を受容し超越する。
その重く深い悲しみを抱えつつも、
死別を体験する以前よりも人間的に成熟した人格として生まれ変わることができる。


*個人的には、
ステップ9から10への飛躍のプロセスが大変興味深い。

まさに、暗転から明転へ。



新たな人格による、人生の創造が始まる。
人間って、スゴい。スゴすぎる。

驚異の再生力。
人間の心の変化は、神秘的。
人間の探Qは、底知れず。





■208ページ。
「死別を体験した人が、この12段階の心の変化をすべて経験するわけではありません。
また、このとおりの順序で心が変化するわけでもありません。行きつ戻りつすることもあれば、
複数の状態が重なって現れることもあり、逆戻りすることもあり、一様ではありません」

とのこと。


"こころの探Q"、

それは、どこまでも、

底なし沼なのだ。



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